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心理学ワールド 93号 小特集 生活習慣における変化への抵抗 村山 綾 | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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21 鎖化した習慣的行動として成立し ている。  行動連鎖という観点から,禁煙 法が取り上げられることはあまり ないようなので,私自身が喫煙を やめる時に,どのようなことを考 えたのかを紹介したい。詳しく は,電子書籍もある「やめられな い心理学」を見ていただきたい。  オペラント学習の基本的枠組み は,先行刺激−行動−結果という 三項随伴性であり,結果として提 示される刺激が次の行動の先行刺 激となり,最終的なニコチン摂取 まで連鎖としてつながっている。 最終の強化が依存物質の摂取であ ることも喫煙をやめられない大き な原因である。  しかし,服用など別の経路でニ コチン不足を補う方法で禁煙を支 援しても,簡単にやめられない人 も多い。これは,作り込まれた連 鎖によって,刺激性制御を受けて 一連の行動がガチガチに維持され ているからである。  喫煙者は一生の間にブランドを それほど変えないことも,そのこ とを示している。先行刺激として 強力なもののひとつは素晴らしく デザインされたパッケージであ り,それが,ライトを浴びてディ スプレイされているのを多く見か ける。  つまり,たばこ会社は,この行 動連鎖を維持するために知恵や才 能,資金を投入している。これに 対して,何の対策もせずに,個人 の決意や意志力で立ち向かうとい う戦略はかなり無謀といえる。  これに対抗するために,諸外国 では,たばこのパッケージに,そ の害を示す写真を大きく表示する ように求めることが多く,手に取 るのに勇気がいるような,かなり 気持ちの悪いものも多いが,日本 ではその必要性が受け入れられて おらず実現していない。これは心 理学が社会貢献していないという 日本の現状を示している(図1)。  かつて私(島井)が選んだ戦略 は,やめると決めたその日から, 無理やり,それまで吸ってきたの とは違うブランドを買い,そし て,毎日,ブランドを変えていく という方法であり,さらに,別の 店で買うという方法である。手元 のたばこを吸わないよりも,違う ブランドを買うほうが容易だから 私達は,様々な場面において,たとえ問題を認識していたとしても変化を求めず,不便さや不適応 さを含めて現状を受け入れがちです。行動変容に対する心理的抵抗感の背景にある共通の要因や, この問題に対する新たな視点をあぶり出すことができればと考え企画しました。 (村山 綾)

変化への抵抗

はじめに  皆さんには,自分の生活習慣で 変えたいと思っているものがある かもしれない。そして,それはな かなか変えにくい手ごわいものか もしれない。あるいは,自分では なく誰かの生活習慣を変えたいと 思っているかもしれない。  健康心理学の専門家にとって は,支援する必要性の判断は,そ の習慣が本来の寿命をどのくらい 縮めるかという程度にある。ある いは,まだ正確な評価は難しい が,より精密には,心身の幸福な 状態を損なう程度による。 行動連鎖の弱体化  そこで,この立場からみると, もしもあなたがたばこを吸ってい るとすれば,他の何よりも優先し て変えるべき生活習慣は喫煙と判 断できる。喫煙習慣ほど,死亡率 を高め,幸福な人生を縮めてしま う習慣はないからだ。そこで,こ れを例として説明したい。  喫煙習慣は,たばこに含まれる ニコチンという物質への依存症で ある。そして,実際の習慣的行動 は,ニコチンの摂取を強化子とし た,オペラント条件づけによる連

小特集

生活習慣における変化への抵抗

関西福祉科学大学心理科学部 教授

島井哲志

(しまい さとし) Profile─ 関西学院大学大学院博士課程修 了。博士(医学)。2016年より現 職。専門は健康心理学,ポジティ ブ心理学,疫学・公衆衛生学。著 書に『「やめられない」心理学』 (単著,集英社新書)など。 関西福祉科学大学心理科学部 講師

松本 敦

(まつもと あつし) Profile─ 名古屋大学大学院博士(後期) 課程修了。博士(心理学)。生理 学研究所,情報通信研究機構など を経て現職。専門は生理心理学, 認知神経科学。著書に『脳波解 析入門』(共著,東京大学出版会)。

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22 だ。  こうして,習慣的行動の連鎖部 分を弱体化すれば,何週間かのう ちに,いつでもやめられる状態に なる。そして,この戦略の優れた 点は,自分が吸っていたブランド にもこだわりがなくなり,再喫煙 のきっかけの刺激統制の力がきわ めて弱くなることである。 変更を決める自己の価値  この方法で,私は無事に禁煙し たが,そこでは私は習慣を変える 介入の対象者でもあり,変えるこ とを決定する人間でもあった。い わば,クライエント兼支援者であ る。支援者として,クライエント の行動の理解から,それを効果的 に変化する介入を企画した。しか し,支援者たる自分が喫煙をやめ る意思や態度はどのように作ら れ,そこでは何が大切なのかは, 別の問題である。  当時の私は医学部で公衆衛生の 専門家として,医学生のモデルと いう社会的役割をもっていた。ま た,子どもが生まれ父親としての 役割もあり,これらと喫煙し続け ることには大きな矛盾があり,選 択することを迫られていた。これ はかなり強い動機づけだといえ る。  そして,私には支援者が自分で あること,つまり,自分で習慣を 変えると決めたことが重要であっ た。これは自己決定理論であり, 自分から実現したいという動機づ けを支えると同時に,自分自身の 人生の意味や自己実現にもつなが るものである。  私の場合には,それまでの喫煙 仲間から裏切り者と称されるとい うネガティブな出来事もあったも のの,多くの人の健康や幸福を実 現するという研究上の主張と,自 分の行動に一貫性があるという評 価はいただいただろう。  しかし,習慣を変えるのを決定 するのが自分ではない場合は状況 が異なる。今回,取り上げている 「変化への抵抗」の中には,自己 決定しておらず,変化させたいと いう支援者に対する抵抗という場 合もあるのかもしれない。  たとえば,健康教育の授業で, 自分に身近な喫煙者一人を支援 する活動を課題としたことがあっ た。しかし,いくらツールや支援 を準備しても,そして,支援者が その人の人生をどれほど大切に感 じていたとしても,残念ながら, 本人の禁煙はつながらないという 結果も少なくなかった。それは, 禁煙を本人の人生の意味につなげ ることができなかったからである。  たとえば,毎日,長時間ゲーム を続けたいと思っている青少年と それをやめさせたい親がいるか もしれない。しかし,本人がeス ポーツプレイヤーになりたいと 願っているとすれば,ゲームをや めることは,本人の人生の意味に つながっていない。  変化を効果的にもたらすための 自己決定に至るには,自己実現や 人生の意味を話し合うことから始 める必要があるのである。 人生の意味と時間  自分のめざす行動が,人生で大 切にしたいことに関係があれば, それを行うのが容易になる。これ は,将来に向かう時間を見通す力 であり,希望という心の働きであ る。そして,今後起きることに良 い結果を期待する力である。社会 貢献や他の人との関わりの価値を 大切にすることも,将来を期待す る力の強さと関連する。  逆に,先の見通しや期待が弱い と,目の前の利害だけに囚われ, 行動の連鎖に左右される傾向が強 くなる。近年問題にされることが 多くなってきたインターネットや ゲーム,ギャンブルなどへの行動 依存もこのような人生の意味に左 右されうる。  我々の調査(松本ら,未発表) によれば,人生の意味を感じてい る人はゲームに熱中することは あっても依存的にはなりにくい。 彼らはゲームがもたらす行動の連 鎖を自ら断ち切り,ゲームを自ら の生活を豊かにするツールとして うまく活用している(図2)。  保守的な人間は変化を好む人間 よりも,恐怖などの感情を司る偏 桃体の神経密度が高いという報告 がある。これが正しいとすれば, 変化に対する抵抗とはすなわち恐 怖である。元々,生物にとって変 化とは危険で忌避すべきものだ。 変化のための決断にはこの恐怖を 断ち切るための勇気が必要であ る。自己の将来を見通し,人生に 意味を見出すことは私たちに「変 わること」への勇気をもたらして くれる光なのかもしれない。 図1 日本と国外のメビウスの パッケージ 図2 ゲーム愛好・依存集団の 人生の意味保有得点 人生 の 意味保有 ︵ ±標準誤差 ︶ ゲーム 愛好者 ゲーム依存傾向者 ゲーム依存者 �� �� �� ��

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